2015年5月14日木曜日

ボタン展覧会

ちょっと前の話になりますが、先月に装飾芸術美術館で開かれているボタンの展覧会に行ってきました。今年は、テキスタイルとモードに関しての展覧会が盛りだくさんのパリ。体がいくつあっても足りません。



中に入ると、ボタンだけでこんなに種類があるのか、と唸らせるかなりの量。仕事帰りでヘトヘトになっていたにも関わらず、見始めると疲れも忘れてしまいます。

数え切れないボタンは様々な素材で作られていて、木、貝、ガラス、革、そして黒玉(こくぎょく=水中で長い年月を経て化石化した樹木)など、初めて耳にする素材などもありました。

ボタンを作る素材がこんなにあるとは、再発見です


普段見ている調度品に使われている素材がボタンにも使われています




1940年代は物資に乏しい時代という背景から、贅沢な装飾を施さなくてもボタンはそれ一つで衣服を装飾する役割としてたいへん重宝されたそうです。そう言われれば、私も古いセーターのボタンを変えてリメイクしたのを思い出しました。



ボタンというよりは、もうほとんどジュエリーに近いです




ボタンも洋服と同様、まずはデザイナーがクロッキー画を描きます




1950年代は、ドレス装飾職人たちにとっての黄金時代でした。この時代に、斬新なデザインを打ち出す多くの新しいデザイナーが生まれ、 それと共に装飾やジュエリーを手がけるクチュリエのアトリエも増えました。クチュリエが成功を収めると、ファッション雑誌はその素晴らしい仕事ぶりをデザイナー同様、ドレスの装飾を担当するアトリエのことも話題にするようになります。「ジャンピエール・ロジェ」や「フランシス・ヴィンター」はクリスチャン・ディオールの装飾担当となります。「グリポワ」はマドレーヌ・ヴィオネ専属メゾンでしたが、後にシャネルのドレスを装飾する数々のボタンを作り出しました。ジョルジュ・デリュはバレンシアガ、ジャック・ファット、ジバンシーらを担当していました。














この時代は、衣服というものが社会の中でとても重要な位置を占めていた時代でした。それは、社会におけるコミュニケーションのツールでもあり、身につけているものは他人への尊敬の念でもあり、そして衣服そのものは言葉以上にその人を全て語っていたのだと思います。そして、衣服に関わるクチュリエ、職人たちはこの時代の経済を担う重要な役割でもあったでしょう。そして、その技術を身につけて一人立ちしようと夢見ていた若い人も多かったことでしょう。この時代の衣服はもちろん新しい「モード」、を作り出していたと思いますが、それ以前に衣服そのものがこの時代の生き方、あるいは哲学を作り出していたのかもしれません。それは、同じ時代、着物を着ていた日本にも全く同じものが存在していたことになります。

幸か不幸か、まだアナログ時代であった高度成長期の日本に産み落とされ、白黒テレビからカラーテレビへ、カセットテープやドーナツ盤からCDへ。成人してからは急速にデジタル化が進み、今こうやってネットを通してブログを発信しています。私にとって、今でも一番鮮明に残っている時代は70年と80年。デジタル化されてからはいろいろな記憶の色がとても薄いのです。自分が子供だったから、若かったから、というのも理由なのでしょうが、この頃まで社会全体がまだ手を動かして、人と人とが直に会っていたような気がするのです。
そして、70年代80年代はまだまだ衣服が社会で重要な存在を示していました。日本では、日本人が日本人のために日本で衣服を作っていた時代でした。








当時のファッション雑誌


現在では、かつて夢を作り続けた職人たちはわずかな注文をこなしその一方重税に苦しみ、そしてその技術も後を継ぐ人なく消滅。衣服だけに限らず、ボタンもリボンも海の向こうで破格の値段で大量生産。東西問わず、どこに行っても人々はナ◯キのスニーカーを履いて、ユ◯クロを着て街を闊歩しています(すいません、私もその一人)。洋服なんかにお金かけるよりも、最新のIT機器を手に入れた方がずっと幸せな時代になりました(私は常にIT機器にいじめられているのでそうではない)。
「万物は流転する」と言うように、時代と共に全てのものは変化を遂げ、そして人間の興味の対象もいろいろな方向に移行していくのでしょう。しかし、やはり衣服というものはその人を表すものであり、他人に対してのリスペクトも意味するのだと思います。
レストランや劇場などでドレスコードがあるのはまさにこのことでしょう。
いくら観光とは言っても、パリでTシャツ、短パン、ゴム草履というのは厳禁です。

このような展覧会を見るたびに、これからの時代はどういう変化を遂げるのだろうか、と考えられずにはいられません。しかし、時代がどんなに変わろうとも、人が手で作ったものには温かさがあり、作り手の情熱はそれを手に取る人に必ず伝わると私は心から信じています。

装飾芸術美術館 
ボタン展覧会 "Déboutonner la mode"
2015年7月19日まで