2010年8月29日日曜日

北海道 道東の旅 - アイヌ刺繍家と遂に対面

熊の木彫りを眺めているとこのお店のオーナーである中川祐子さんから声をかけられました(「クロユリ屋」北海道阿寒町阿寒湖温泉四丁目七番十六号)。商品のことを丁寧に説明していただき、お話しているうちに実はアイヌ刺繍に興味があって北海道に来ましたということを伝えたところ、「これは全部私が作ったの」と壁にかかっている数々のアイヌ刺繍の上着を見せてくれました。実は彼女自身がアイヌ刺繍家だったのです。うわー、遂にアイヌ刺繍の刺繍家に巡り会うことが出来ました。「ちょっと着て見る?」と言われて、恐れ多かったのですがお言葉に甘えて試着させていただきました。自分で言うのもなんですが、南国顔の私にはよく似合います。着物よりも全然イケてます。




目を凝らしてみると間違いなく全部手縫い、手刺しです。木彫りの熊も含めてここには手仕事しかありません。アイヌ刺繍の生に出逢えて興奮していると「アイヌ 刺繍が好きならこんな本があるのよ」とお店にある本を一冊私に見せてくれました。この本は実は前日行った北方民族博物館で私が既に購入している本でした。 アマゾンでも購入出来るので興味のある方は是非。
「西田香代子のテケカラペ アイヌ刺繍」




ということを中川さんに伝えると「あら、そうなの。この作家の方うちのすぐ斜め前の家なのよ。それじゃ、今から行きましょう」とそのままはす向かいのお店 に。あ、はい。でも、お店はいいんですか...と躊躇しながらも向いの店に。店に入ったと思ったら「はい、上がって」といきなり店を通り越して家の中 に。いきなり知らない者が家に上がって失礼ではないかと思ったのですが、もしかしたらここでは周りの人はみんな知り合いで家族のような付き合いなのかも しれません。私が小さい時も(今でも時々)、呼び鈴も鳴らずにいきなりドアがガラガラと開いて「こんにちはー。いますかぁー」という時がありました。こんな光景、ちょっと懐かしいです。中ではこの本の作家である西田香代子さんが忙しくお昼ご飯を作っておりました。中川さんが私がアイヌ刺繍を見るために北海道に来たいきさつを話すと、今度は彼女の作品を見せてもらう事に。何だかすごいスピードで私の求めている物が目の前に次々と出て来ます。中川さん曰く「彼 女(西田さん)の作品は本当の芸術品よ」褒めていました。一針一針心を込めて刺した細かく丁寧なステッチは、西田さんが作品に対して決して妥協しないという意気込みを感じることが出来ました。どこにも手を抜いた跡がない...中川さんが「芸術品」と言っている理由が分かりました。「じゃ、私がモデル になって着てあげるわ」と中川さんが羽織ってくれました。






アイヌ刺繍作家の方とお会い出来て話は今から盛り上がる、という時にもう電車に乗るために時間が来てしまいました。非常に残念です。ただ、北海道は広くて移動に時間がかかるのでこの電車を逃したらあとがありません。まだまだたくさんお話をしていたかったのに、泣く泣くこの阿寒湖畔を跡にして摩周駅まで向かうことになりました。

こんな見ず知らずの私を快く迎えてくださった、中川様、西田様、本当にありがとうございました。また必ずここに戻って来ますね。今度は私の木彫りの熊も一緒に。

2010年8月28日土曜日

北海道 道東の旅 - 木彫りの熊の出身地を確認する

神秘的で同時に不気味な摩周湖を後にすると今度は屈斜路湖に。読み方は「くっしゃろこ」ですよ。この湖はかなり遠くから見下ろすような形だったので摩周湖よりは背筋は寒くなかったのですが、ここも近くに寄ったらかなり...恐いと思います。



今まで湖はいくつも見て来ましたが、摩周湖も屈斜路湖もこんなに神秘的な湖は生まれて初めてです。いろいろな魂が宿っているのを体と心で感じます。湖を見ただけで肝試しと同じ感覚を味わえるとはすごいです。

さて、今度はもっと陽気なはずの阿寒湖畔を目指します。ここにはアイヌの文化が集中している場所のはず。私の今回の旅の目的がぎっしり詰まっているはずです。何だかドキドキしてきました。阿寒湖畔に着くとお土産通りが目の前に広がります。日本のどこにでもある見慣れたお土産のお店が何軒も連なります。とりあえず最初に目に留まったお土産屋さんに入ってみました。そうそう、北海道のお土産と言ったら鮭をくわえた木彫りの熊ですよね。あるある、大中小と大きさもいろいろ。これが全部手で彫られているんだー、感心していてふと横に目をやるとびっくり!私の知っている人が何人もいます!それは、この人。

 

棚にずらっと並ぶのは私が小さな時から大事にしている木彫りの熊。何故ここに...この私の熊は私が9歳ぐらいだった時に、熊本の熊牧場という熊しかいない動物園(たくさんの熊がいますがどの熊も同じに見えますが...)で購入したものです。実は彼の出身は北海道だったのか、というのをこの時に発見します。ちょっと感動です。ずっと熊本の出身だと思っていたのですが、実は北海道からはるばる九州にお嫁に(?)来た人だったとは。手先の器用なアイヌの方に一つ一つ丹念に彫られた熊達は私の熊と同じように優しい顔で微笑んでいます。私はこの熊を実はずっと旅行の時、特に飛行機に乗る時にはつい最近までお守りとして持ち歩いていました。何故この熊ちゃんをお守りにしていたのか未だに分かりません。ただ可愛かったから?いや、きっと手で彫られて彫り手の方の魂が込められてそれを自然と私が感じてお守りにしていたのでしょうか...手作りのパワーを改めて感じ、そして確信します。この北海道旅行の時にこの子を連れて行ってなかったのが残念で仕方ありません。しばし、棚に並んだ熊達を見詰めて恍惚状態でした。

2010年8月27日金曜日

北海道 道東の旅 - 知床半島、摩周湖

博物館を後にして目指すは知床半島。車窓から見える海はオホーツク海!ここも誰もいない...まあ、ちょっと海水浴という感じのビーチではないですね。どこまでも寂しいオホーツク海は波もあまり立ちません。冬はここを流氷が埋め尽くすのですね。そんな風景も見てみたいです。




一両の電車が可愛い。



北海道は自然の宝庫だと聞いてはいましたが、至る所に蝦夷鹿が!おおっ、この牡鹿の貫禄。サファリパークではないですよ、野生の鹿ですよ。今じゃ、人間が鹿をいじめようものなら人間の方が罰されるので、それを知っているかのように余裕で草を蝕んでいます。



オホーツク海をバックに緑が広がる自然。向こうにはまた鹿が。



山の方にはまだ残雪がちらほらと。


あまりにも神秘的なオホーツク海。こんな雰囲気だと海水浴ってムードにならないですよね。一度足を踏み入れたら戻って来れなさそう。



そしてこれが歌にもある「霧の摩周湖」。神秘的というよりも恐い!



霧が晴れたら...もっと恐い!


北海道の自然は壮大なだけでなく神秘的。何かビリビリしたものを全身で感じますね。

2010年8月26日木曜日

北海道 道東の旅 - 「北海道立 北方民族博物館」その三 アイヌ衣服との出逢い

北方民族文化の深さに圧倒されながら見回していると、ありました!アイヌ刺繍。これぞ、私が探して求めていたもの。他の民族衣服と比較すると色使いなど質素な感じに見えますが、よーく見ると細かな手仕事が施されています。


先の尖った文様は矢を表していて、外から悪い病気などが体に入り込まないように魔除けの意味を持っています。


文様に使われるステッチには主にチェーンステッチが多く見られます。


儀式用の衣装



これは樹皮衣。木の皮を剥いで、それを水に数週間浸けた後ぬめりを取って干しよく乾かし、それを裂いて糸にします。手のかかった繊維です。





ちょっと「かさこ地蔵」を思わせます。


こちらはアラスカのイヌイット作



そして、アイヌと言えば木彫り。あの北海道のお土産で有名な鮭を加えている熊の置物は彼らの手による工芸品です。織物や刺繍は女性の仕事、木彫りは男性の仕事となっているようです。


この他、ここに載せられないほどの素晴らしい展示品に息を飲む思いでした。北方民族に関する資料の多さ、内容の濃さと幅の広さではこの博物館に勝るところはないのではないでしょうか。また博物館はまさに森に囲まれた大自然の中で環境も抜群。ただし、車は絶対必要です。
網走の近くまで行くことがありましたら、是非、無理とは言いませんから、いや、やっぱり無理してでもこの博物館に行くことをお勧めします。

2010年8月25日水曜日

北海道 道東の旅 - 「北海道立 北方民族博物館」その二

北方民族というくらいですからどこもかしこも寒いです。南国の鹿児島の人間にとっては、一年の半分を雪と共に暮らすなどとは想像も出来ません。小さいとき、大晦日の「ゆく年来る年」で「それでは青森からの中継でーす」とアナウンサーが言うとよくかまくらの中でお汁粉を食べている人などが出ていました。それを見て「なんて素敵!雪で自分たちの家を作れるなんて」とよく思ったものでした。うちの方は積雪が多い年でも雪だるまがやっとだったので、この「かまくら」には未だに憧れがあります。
さて、北方の被服では防寒着が必然的に中心となってきます。毛皮は必需品ですよね。




羊毛を使ったものも多く展示されています。


羊毛を織っています。凹凸をだした手仕事の細かさに注目。





フェルトを使っています。




ビーズはヨーロッパ人との交易で得たものらしいです。雪に囲まれて色には限りのある環境で生活をしているのに、素晴らしい色彩感覚を持っていることに驚きです。


そして、レースや刺繍などがあしらわれて装飾も豊かになってきます。




刺繍とアップリケの技術を駆使しています。




まだまだ博物館は続きます。

2010年8月24日火曜日

北海道 道東の旅 - 「北海道立 北方民族博物館」その一

北海道は涼しいです。この頃の東京はまだ梅雨明けしていませんでしたが、それでも30度。北海道にいるとそんな不快さはどこ吹く風という感じです。
さて、目的のアイヌ刺繍を求めて動き始めます。まずは網走にある北海道立北方民族博物館。アイヌ民族の歴史だけではなく、オホーツク海からロシアにかけて、そしてグリーンランドのイヌイット(エスキモー)、スカンジナビアのサミ(ラップランド)などなど、北方と言ってもかなり広い分野を網羅しているこの博物館、期待以上のものがぎっしり詰まっている私にとって夢のような空間でした。数々の民族の衣服がいきなり目に入って来て我を忘れます。しかし、それまで私が見慣れている「衣服」というものを覆すようなものばかりです。というよりも「被服」の原点に戻ったものが並べられています。その中でも私がびっくらこいたのは、これ!

これ、和紙じゃないですよ。腸、です!アラスカのイヌイットの方による「腸製パーカ」。防水性に富んでいてカヤックなどの舟に乗るときは必需品とか。アザラシ、セイウチ、クジラ、オヒョウなどの海獣や魚の腸を用いるそうです。縫い目から水がしみ込まないように縫い目や継ぎ目には工夫が施されているそうです。まさか「腸」が衣服になるなどとは思ってもいませんでした。このパーカを着たら自分は「腸詰め」になっちゃうのですね。


もうこの時点で、錦織だの、紬などという今まで私の中にあった衣服の枠を超えます。まさに「生きるために着る」という被服の原点に戻らざるを得ません。



でもって、これは魚皮。魚の皮で出来た靴です。背びれの部分が靴底の中央に来るようになるように作られていて滑り止めの役割を果たすのだそうです。人間の知恵ってすごい!!!
皮はサケやイトウなどらしいです。鮭とばが大好きな私なんか、この皮を火にあぶって鮭の肴にしかねませんが...





小物だって忘れてはいません。これも腸製。毛皮がついてなかなかお洒落です。


いきなり腸だの魚の皮だの出て来ましたが、博物館にはまだまだたくさんの物が収められています。

2010年8月23日月曜日

北海道 道東の旅 - 前書き

猛暑で苦しんでいる日本の皆様、セーターの完成などをお見せして失礼いたしました。お詫びに、ちょっとだけ涼しいお話をしますのでお許しください。

実は7月の上旬に4泊5日で北海道は道東の旅に行って参りました。目的は「アイヌ刺繍」を見ること。このアイヌ刺繍、実は5年だか6年だか前に始めて知り、それ以来頭の隅に留めておいた手仕事でした。そして、最近この刺繍の持つ魅力にどんどん惹かれて思い切って北海道、それも道東の方に行く好機を与えられました。鹿児島の人間にとって北海道はまるで外国。地図を見ても自分の実家があるところと真反対。社会科地図帳でしか知らない世界です。いつかは足を延ばしてみたい北海道、と思っていましたがいきなり札幌や函館ではなくて網走から。友達に「始めて北海道行くのに札幌じゃなくて、えっ、網走?!」とびっくりされました(苦笑)。

東京の友人が全てプランを立ててくれたのですが、まず羽田空港から出る飛行機が女満別空港というところに着くと聞いた時点でこの「女満別」が読めない。「めまんべつ」と読むのを確認して地図を見ると、あれれ、見つからない。よーっく見ると網走のすぐ下に飛行機のマークが。ここが女満別空港。羽田からは午前中に一便、午後に一便飛んでいます。

女満別空港に着いたらそのまま北見へ。北見は「きたみ」って読みます(笑)。つかの間の夏を思い切り楽しむかのようにどこも緑が眩しい!って、緑しかない。北海道の自然は壮大とは聞いていましたが、広い広い!道路も広い、歩道も広い(これって車道じゃなくて歩道だよね)、道路には...あまり車も走っていません。

では、涼しい北海道の旅の始まり始まりぃ。



小麦畑



確か土曜の昼なのですが...人、いません。



これ、歩道。車道ではありません(根室市街で)

セーター完成(暑っ)

寒いぐらい涼しいパリはこのまま秋かと思いきや、少しだけ夏日和がカムバック。だけど、いきなり日向で37度!とはいっても、湿気の少ないフランス。家の中は余裕で20度ぐらいの涼しさ。編み物もまだまだいけます。ということで、猛暑でうだっている日本の皆様には申し訳ございませんが、セーターが完成しました。とは言っても、3月から編み始めているわけなので「今頃?」と言われても仕方ありません。
今回は中途半端に残っている、というか、一玉買いをした毛糸や手持ちの毛糸を組み合わせて編んだ一枚。こういうのはエコなのかリサイクルなのかよく分かりませんが、在庫の毛糸を減らすのが一番の目的だったような気がします。しかし、悲しいかな、セーター一枚編んだだけでは在庫もほとんど不動。在庫箱のサイドがパンパンで蓋が閉まらなかったのが閉まるようになったぐらい。そろそろ在庫処理という目的を放棄しなければいけない時期に来ているかもしれません。







あれ、今回の裾はゴム編みじゃないんですね、と思われるかもしれませんが、実は最後に裾をゴム編みするのをただ単純に忘れただけなのです(汗)。袖も残りの毛糸をやっとのことでかき集めてなんとかこの長さに。はー、やっと編み終わってあとは繋げるだけだ、と一安心した瞬間に裾のゴム編みが残っていることに気付いて愕然としました。そんなハプニングを裾を中に折り返してまつるというテクニックでごまかしました。




そうそう、皆さんは毛糸の切れ端ってどうしていますか。以前は私はその度に「ゴミ」として捨てていました。でも、これって編みぐるみやぬいぐるみの詰め物に使えますよね。そんな考えが頭をよぎったらもう捨てられない。こんな毛糸のくずも後生大事に取っておいて「いつかは編みぐるみの詰め物に...」。



やっぱり在庫処理はきっぱり諦めるべきかもしれません。

2010年8月16日月曜日

ボタン展覧会

モナ・ビスマルク財団主催のボタン展覧会に行ってきました。この展覧会、私は全く知らなかったのですが、パリに帰ってきて1週間の間に数人から「もう行った?絶対行った方がいいよ」と言われたら行かないわけにはいかない。パリでもひっそりとした目立たない場所にあるのでこの場所を知らないパリジャンも結構います。入場無料という寛大さは最近では芸術の都のパリでも皆無。ショッピングセンターやらいろいろなもので飾り立てて入場料をつり上げているルーブルなどは見習って欲しいものです。
さて、平日だというのに展覧会場は結構な人。入り口ではヴァンヴの蚤の市でボタンを売っているおじさんにも会いました(ヴァンヴに数回行ったことある人だったら絶対知っています)。中に展示してあるボタンは宝石かと思わせるようなボタンも勢揃いで、ボタンの粋を越えています。これはやっぱり見ておかないといけない展覧会だと納得しました。その中のほんの一部を公開。





うっとりー。


イニシアルが彫ってあります。


エッフェル塔3Dボタン


まるでタブローです。


カメオのようなボタン


仕事の細かさに圧倒。


アールヌーボー風、素敵!






フランスの地図。日本地図で同じことやったら長い島国なのでこうはいかないでしょうね。


かわいい!


猫が鏡を覗き込んでいる姿が彫られています。


ボタンのデザイン画


宝島で見つかった宝箱のよう。見せ方も凝っています。


芸の細かさにため息。


寄木細工風のボタン。


クレージュを思わせます。


デザイン画も既に芸術品。














家具ごと全部欲しい!




ボタンでデコレーションした可愛いイラスト。


どうですか、ため息の出るボタンばかりですよね。いつも脇役で終わっているように見えるボタンもこうやってみるとその一個で全てをがらりと変えてしまうような力を持っています。ますますボタンが好きになりました。やれやれ、これで布、糸の在庫の他にボタンの在庫も今後増えそうな気配です。